新聞紙分析

  立教新座高校の3年生が受講する選択講座「メディア・リテラシー」と「メディアとジャーナリズム」では、毎年二学期に報道分析を行っています。対象とするのは新聞紙、ニュース番組、そしてインターネット上のニュース記事です。それぞれにメディアの特徴があり、各メディア間の比較を通して俯瞰的に分析することで、メディアの意味や特性を理解し、受け手として情報を批判的に読み解きます。1年を通して、メディアを分析する際には、メディア研究の三角モデル(Ontario Ministry of Education 1989, 鈴木 2004)の3つの側面(テクスト、オーディエンス、生産・制作)を見ることを促します。



  さて、報道分析の第一弾は、新聞紙分析。朝日新聞、毎日新聞、読売新聞の1面を概観し、Hobbs(2011)の「5つのクリティカルな問い」を参考に分析を進めます。

5つのクリティカルな問い(Hobbs, 2011)

 1. 記事を要約してみよう

 2. 5つのクリティカルな問い

  •作者は誰で,何が目的か

  •注目を集め,維持するためにどんなテクニックが使われているか

  •どんなライフスタイル,価値観,視点が提示されているか

  •このメッセージを異なる人々がどのように理解するだろうか

  •何が除外されているか



  多くの受講生は、新聞紙の記事1つ1つを丁寧に読み、何が報道されているのかを分析することができます。例えば、記事を書いたジャーナリストの名前や見出しの文字の大きさ、使われている写真やその位置などです。しかし、一番上にあるコピーライトの「©」や「第三種郵便物」、一番下に掲載されている書籍の広告、天気予報やコラムなどはあまり分析しないのです。「分析するのは新聞の個別の(政治や経済等の)記事のみ」という先入観があるからだと思いますが、実は授業では「新聞紙の一面を分析しましょう」との指示しか出していません。新聞を制作するのは基本的に新聞社(会社)ですから、もちろん営利目的の経済活動があるわけです。それは、三角モデルの「生産・制作」に含まれるところですから、広告などを分析することも、とても大切な視点なのです。




  そして、もっと大切なことは、「そこに何が書かれていないか」。書かれていることは見ればなんとなく分かりますが、書かれていないことを想像し分析することは、知的好奇心が求められます。複数の新聞紙を比較して、「A紙にはあるけれどもB紙にはない」といったことは簡単に分かります。しかし、この方法だけでは、両紙のいずれにも書かれていない内容については、気が付くことはありません。例えば、重大な事件が起きていても、日本の新聞紙がほとんど報道しないことが多々あります。このような時、A紙からE紙の5つの日本の新聞を読んで比較しても、その事件すら出てこないのですから、無いことが分かりません(5紙も分析した!と満足感を得ることはできますが…)。



  これには、2つの授業の方向性があると思います。

  1つ目は、海外の新聞も比較の対象とすることです。わたしの授業では、日本、英米、中東、韓中、東欧の新聞記事を紹介することがあります。日本の新聞では書かれない切れ味の良い記事もあれば、的外れな批判を行う記事もあります。新聞紙のデザインも大きく異なり、目を引くためのテクニックも様々です。玉石混交ですが、分析対象としては面白いものばかりです。

  2つ目は、様々な方向に興味を向けるための知的好奇心を培うことです。例えば、社会的・政治的に大きな問題が国会で議論されているとき、その内容を勉強した上で新聞紙を分析すれば、単なる「記事」ではなく、そこにある視点や観点、そこに無い視点や観点が浮かび上がってきます。わたしの授業(特にメディアとジャーナリズム)では、言論・表現の自由についてその理論や憲法・法律を学び、制定過程や自由を侵害した事例を学びます。この基礎知識があれば、言論・表現の自由を侵害した(可能性のある)事件が起きてそれが報道されたとき、それに興味を持って目を向け、1紙を分析するだけでもそこに無い視点・観点を指摘することができるようになります(「先生、先週こんな事件が報道されていましたよね」と話しかけてくれる受講生もしばしば)。




  新聞紙分析は、メディア・リテラシーの力を育成する良い題材の一つです。さらに、新聞を読んだことがほとんどない受講生に対しては、それを「読む」良い機会にもなります。過去には、新聞紙分析と制作の実践を分析し、論文で発表していますので、授業設計の参考までにどうぞ。授業が終わったら、ぜひ情報共有をさせてください。




参考文献

  • Hobbs, R. (2011) Digital and MEDIA LITERACY Connecting Culture and Classroom. Corwin. (森本洋介・和田正人監訳(2015)デジタル時代のメディア・リテラシー教育.東京学芸大学出版会)
  • Ontario Ministry of Education (1989) Media Literacy Resource Guide. Queenʼs Printer for Ontario.
  • 鈴木みどり(2004)Study Guide メディア・リテラシー.リベルタ出版,東京.

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