映像言語を読み解く練習

  毎年、立教新座中学校・高等学校で高校3年生に「メディア・リテラシー」という選択講座を開講しています。1学期の大きなテーマは「CM」。実際に放映された商業用のCMや、2017年度に本講座の生徒が作成したCM(福山大学主催高校生CMコンテスト「奨励賞」受賞作品)を視聴し、分析します。


  コンテストには2017年から応募をはじめ、奨励賞(2017年)、特別賞(2018年)、グランプリ(2019年)、第5位(最終審査進出作品 2021年)、金賞(2022年)を受賞しました。





  この講座では、「メディア・リテラシーを培うこと」を目標としています。メディア・リテラシーとは、①メディアの機能や特性を理解する力、②受け手として情報を批判的に読み解く力、③送り手として情報を表現・発信する力、④コミュニケーションを創り出す力のことです。(定義について、詳しくは和田(2020)やPotter(2022)をお読みください)。


  「メディア・リテラシー」が目標ですので、CMが大きなテーマだとしても、単に映像編集技術を教えることだけでは終わりません。それだけだと、単に技術の習得だけになってしまうからです。そうではなく、ソーシャル時代のメディア・リテラシーの構成要素(中橋 2014)における「メディアを読解、解釈、鑑賞する力」や「メディアを批判的に捉える力」、「考えをメディアで表現する力」、「メディアによる対話とコミュニケーション能力」といった力を培うことこそ、メディア・リテラシー教育だと考えます。その中でも特に大切なこと(そして一番難しいこと)は、教室内で批判的思考力が発揮されることではなく、教師のいない自身の日常の文脈で起こるメディア接触に際し、活動で培った能力を活かすことができるのか、ということなのです(高橋・和田 2021)。



  学校のパソコンにはPremiere ElementsやPhotoshopをはじめ様々な編集ソフトが用意されており、受講生はこれらを自由に使うことができます。しかし、授業では、高機能なソフトウェアを使いこなすこと(だけ)がメディア・リテラシーの目標ではないことや、自分が日常の生活の中で使用しているデバイスやソフトを用いて編集することを通して、それらのメディア接触等を批判的に振り返ることができること、といったことを伝えています。



  映像には、映像というメディアの機能や特性があり、それを視聴するオーディエンスは様々な解釈を行うことになります。ただ映像を見て喜怒哀楽の感情を爆発させるのではなく、一呼吸を置き、いったん判断を留保して、多角的な視点から考察を試みる。授業では、そのような活動を続けています。そこで培った力が、日常の生活のメディア接触で発揮されればと願いつつ…。ご興味のある方は、是非見学にいらしてください。歓迎いたします。




2017年度「奨励賞」受賞作品:「心の故郷 深谷」




2018年度「特別賞」受賞作品:「時をかけるクッキー」




2019年度「グランプリ」受賞作品:「千住の道も一歩から」




2021年度「第5位(最終審査進出作品)」:「夕食の用意をせよ!!」




2022年度「金賞」受賞作品:「小江戸 川越氷川神社」




参考文献

  • 和田正人(2020)メディア・リテラシー教育 : 日本及び海外における定義.東京学芸大学紀要,総合教育科学系(71):581-611
  • Potter, W. J. (2022) Analysis of definitions of media literacy. Journal of Media Literacy Education, 14(2), 27-43
  • 中橋雄(2014)メディア・リテラシー論.北樹出版
  • 高橋敦志・和田正人(2021)コーチングによるメディア・リテラシーの学びの支援に関する研究―高校生を対象としたCMの分析と制作の実践から―.読書科学,62巻,2号:98-116

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